熟年離婚
熟年離婚の動機
熟年離婚は増えているといわれますが、その動機として妻側からみて次のようなことを挙げることができます。
熟年離婚の困難さ
夫の立場
夫にとっては、定年退職後は妻と二人で楽に生活するつもりでいたにもかかわらず、妻から離婚を切り出されてその理由が理解できない状況にあります。
夫にとっては、定年退職により、これまで何十年もの間勤めていた職場という拠り所を失うと共に、家庭をも失うことになります。
夫にとっては、特に女性問題などの不貞行為もなく、妻への暴力もなかったため、何の落ち度もないのに何故?という、納得がいかない思いが強いのです。
このため、夫としては、離婚に向けての話し合いに応じる姿勢がとれず、離婚調停、更には離婚訴訟での解決に及ぶ可能性が高くなります。
妻の立場
このように、妻にとっては、これまでの生活が乱されることに我慢ができなくなり、第二の人生を夢みて離婚への思いが強くなります。
このような夫の立場と妻の立場の違いの他に、財産分与・年金分割などの経済的な問題も加わって、熟年離婚は困難を極めるケースが比較的多くみられる傾向にあります。
熟年離婚の財産分与の困難さ
夫婦形成財産の隠蔽
熟年離婚の財産分与は、老後の生活資金として重要になってきますので、双方がその確保に向けて熾烈な争いになってきます。ときには夫婦の財産を管理していた当事者が、夫婦形成財産の存在を隠そうとすることもあります。
或いは、財産管理をしていない当事者は、もっと財産があるはずだと主張し、他方当事者が財産を隠していると疑うことは少なくありません。
住宅をめぐる争い
熟年離婚の特徴として、住宅ローンの返済が終わっているケースが多いため、この自宅をどちらが取得するかについて争いが生じます。長年住み慣れていること、子供たちの実家でもあるため、これを確保したいという思いが強くなります。
ただ、住宅を取得する当事者は、どうしても、その分他の預貯金の取得額が減ることになるため、将来の年金収入との兼ね合いで困難な問題が出てきます。
退職金について
熟年離婚の場合、既に退職金を取得していて、預貯金などの金融資産に代わっていますので、財産分与の金額が若い人の離婚と比べて多くなる傾向にあります。
この退職金の分け方も、単純に2分の1にしてよいかという問題はあります。
例えば、勤務期間が40年、婚姻期間が30年という場合、退職金4000万円の場合、4000万円を2分の1ずつ分けるのか、4000万円の40(年)分の30(年)である3000万円を2分の1ずつ分けるのかといった問題があります。
扶養的要素について
熟年離婚の場合、離婚後の収入面において、夫と妻との間に大きな格差が生じる場合があります。婚姻中、夫がサラリーマンであれば、妻が専業主婦であっても、年金分割の制度があるため、妻の年金収入が一定程度確保されることになります。
ところが、夫が自営業者の場合には、年金分割の制度が適用されないため、例えば、夫が医師、弁護士、公認会計士、税理士等々、高齢者になっても自営収入があるのに対し、妻は高齢故に就労自体極めて困難な状況にある場合には、離婚後の妻との収入の格差が大きくなるケースがあります。
このような場合には、財産分与の清算でカバーできないか、また、慰謝料的要素を加味できないかを検討した上で、それでも不十分な場合に、収入の多い夫から収入の少ない妻への扶養的要素を上乗せした財産分与が考えられることがあります。これは、離婚後は、本来前夫の扶養義務がなくなるのですが、前妻の離婚後の生活保障に問題があるときに考慮される考え方です。
夫にとっては、財産分与の中に、別れていく妻に対し、余分の負担が入ってくるため不満要素になり、これが離婚を困難にする面は否定できません。
(もっとも、視点を変えると、夫にとっては、離婚により婚姻費用分担義務がなくなるわけですから、この点で早期離婚のメリットと捉えることもできます。)
熟年離婚についての弁護士からのアドバイス
離婚後の生活をシミュレーションしてみて、現在の生活と対比することは、決して無駄ではありません。
それでも離婚を求めたいということでしたら、まずは離婚原因となる事実を時系列にして書き出してみることです。いろいろな事実の積み重ねがあるでしょうから、できるだけ事実の特定をした方がよいです。
その事実を裏付ける証拠があれば、その資料を確保しておくことです。
そして、婚姻中に夫婦で築いた財産(夫婦形成財産)を確認して、その資料集めが必要となります。夫名義・妻名義を問いません。
以上のような地道な準備が大切になってきます。