年金分割
離婚の際に年金分割でもめているという話がありますが、正確にいいますと、年金分割請求とは、離婚等をした場合における(給料等の)標準報酬の改定又は決定の請求のことをいいます。
請求の相手方は、日本年金機構です。離婚の相手当事者でも家庭裁判所でもありません。
この点は間違いやすいところです。
年金分割で相手当事者と争いになるのは、後述します「合意分割」の場合の「按分割合」の点です。「1対1」とか「2対1」とかいう部分が争いになっています(正確には「1対1」のときは「0.5」と表わします。)。
離婚前は、離婚調停の際に、調停の対象として年金分割の按分割合が取り上げられます。
また、離婚訴訟においては、附帯処分として年金分割の按分割合が対象になります。
この請求により標準報酬の改定又は決定がなされると、例えば、専業主婦がサラリーマンの夫と離婚した場合、将来、一定程度厚生年金等を受給できるようになります。
対象となる年金の種類
年金分割の対象になるのは、厚生年金及び旧共済年金です(いわゆる二階部分)。
国民年金は、年金分割の対象外です。
従って、会社員や公務員等のサラリーマンの年金(これを「被用者年金」といいます。)が、年金分割の対象になります。ここは押さえておいて下さい。
このため、相手当事者が自営業者や無職の経験しかない者等の場合は、年金分割の対象外です。
年金分割の対象となるものは何か(何を分けるのか)
この点は若干分かりにくいのですが、年金分割は、「婚姻期間中」の「保険料納付記録」の分割のことを指します。つまり、婚姻期間中の標準報酬月額や標準賞与に再評価率等を乗じて修正した総額を当事者双方に分割することをいいます。「婚姻期間中」ですので、「離婚時」までの分になります。
財産分与の場合は別居時の財産が基準になるのですが、年金分割の場合はそれとは、異なります。このため、別居期間中の給料等の積立分も含まれますので、注意が必要です。
当事者が、この対象期間を自由に短縮したりすることはできません。
年金分割の種類
合意分割について
これは、夫婦の合意により分割の割合(これを「按分割合」といいます。)を決めて、その割合に応じて年金分割を行う方法をいいます。
この「按分割合」の上限は0.5(つまり、1対1)です。
按分割合について当事者間で合意に至らないときは、申立てすれば家庭裁判所が審判で決めてくれます。
特別の事情がない限り、按分割合は0.5(つまり、1対1)になります。
離婚時から2年以内に、日本年金機構の年金事務所を通じて、厚生労働大臣に年金分割の請求をする必要があります。
離婚時から2年以内というのは、家庭裁判所に年金分割の申立をすることではありませんので、注意して下さい。
3号分割について
これは、離婚後に日本年金機構の年金事務所に年金分割を申請すれば、按分割合0.5(1対1)を自動的に分割できる方法をいいます。
対象となる当事者
第3号被保険者(例えば、専業主婦等)に限定されます。
分割対象となる年金の期間
平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、第3号被保険者となっていた期間に限定されます。
3号分割だけを行う場合は、当事者間の合意が不要ですので、手続が簡便になります。
この場合に該当するか否かは、いくつかの要件を満たす必要がありますので、平成20年4月1日以降に婚姻した当事者は年金事務所に問い合わせることをお勧めします。
年金分割の手続
合意分割を行う場合
「年金分割のための情報通知書」を年金事務所から発行してもらいます。そのための必要書類は、事前に年金事務所に問い合わせておくとよいです。年金手帳や婚姻期間が分かる戸籍謄本等が必要です。
「年金分割のための情報通知書」は、当事者が按分割合を合意する場合に必要となるもので、離婚調停で按分割合につき合意できたときは、調停調書にその写しが添付されます。合意内容(按分割合)は、単なる口頭での合意では足りず、次のいずれかに記載されることが必要とされています。
① 家庭裁判所の調停調書、審判書、判決書、和解調書
② 公証人役場での公正証書
③ 公証人役場での私署証書認証(当事者が記載したものに公証人がその意思を確認したもの)
④ 当事者双方の本人又は代理人が年金事務所へ直接出頭し、所定の合意書に記入すること
年金事務所で按分割合に応じた年金分割の請求
このとき、上記①~④いずれかの書面が必要になります。
厚生労働大臣による標準報酬の改定又は決定
この改定又は決定の結果は、改定後の保険料納付記録として通知されます。
3号分割のみを行う場合
分割希望の当事者が、離婚後に必要書類を年金事務所に提出するだけです。
弁護士からのアドバイス
離婚を考えるとき、相手方が会社員や公務員等のサラリーマンである場合には、年金分割の按分割合の合意のための手続を忘れないようにして下さい。
年金分割の手続については、年金事務所に問い合わせるのが間違いのないところです。